2012年6月20日水曜日

風評は「情報の一つ」。星野佳路氏


東日本大震災(2011)の被災地となった東北地方。

それ以来、「風評被害」という言葉が東北のアチラコチラから絶えず漏れ聞こえてくる。



風評被害という言葉には、「どうしようもない」「しょうがない」といった諦観が漂っている。

それもそのはず。今季の東北のスキー場などでは「集客が半減した」というところも珍しくなく、場所によっては8割減などという信じ難い数字までがあるようだ。

そんな恐ろしい数字を見てしまえば、「風評被害のせいだ」と責任追求したくもなるだろう。



それでも、「星野佳路」氏は10年後の東北を見据えている。

「(震災が起こる前の)2010年の東北よりも、2020年には遥かに強い東北をつくる」

星野氏はリゾート開発の達人であり、今までに幾多となく廃れた観光地に新しい息吹を送り込んできた。






星野氏自身、東北に2つのスキー場を持つ(アルツ磐梯・裏磐梯猫魔、ともに福島県)。

さすがの星野氏といえども、今季の集客減は免れられなかった。原発直下の福島県は、被災地・東北の中でも最も不利な立場に立たされていたのである。



しかし、星野氏は今回の風評被害を「一時的なもの」と断じている。

その論拠は、福島と同じく原発事故を起こした「スリーマイル島(アメリカ)」に求められるのだという。



スリーマイル島の原発事故の翌年、確かに観光客は減った。

それでも3年もたつと、観光客は過去の実績を上回ると同時に上昇局面に入っている。

それはアメリカ同時多発テロ(2001)の起きたニューヨークにも同じことが当てはまる。やはり3年後には観光客が回復して上昇しているのだ。




星野氏に言わせれば、地震や事故などによる落ち込みは「時間が解決してくれる」ということになる。

それよりも懸念しなければならないのは、「震災前」からくすぶっていた諸問題の方だという。それら長期に渡る諸問題は根が深いことが多いために、いつまでも足を引っ張り続ける危険性があるのだという。

悪いことにそれら旧来の諸問題は、風評被害という影に隠れてしまいがちなために、震災後に軽視される傾向にもあるとのこと。


星野リゾートの教科書
サービスと利益 両立の法則



たとえば、星野氏も手がけるスキー場産業の抱える問題は一筋縄では行かないようだ。

一時のブームに沸いたスキー場産業は、バブル期の過剰投資が仇となり、いまや設備更新のおぼつかないスキー場がほとんどだ。

設備が古くなれば客足は遠のき、客が減ればスタッフを減らす。スタッフが減ればサービスの質が低下し、来るのは閑古鳥ばかり…。

そうした悪循環が新たな悪循環が呼び、日本のスキー人口はピーク時から半減してしまっている。



そんなカツカツのスキー場に、風評被害は吹き荒れたのだ。

そのダメージたるや、息の根を止められんばかりである。その責任を東電に追求しようとするのも無理はない。

しかし、スキー場産業の抱えていた問題はそればかりであったのか?



スキーといえばヨーロッパが本場であり、200年前の歩くスキー(ノルディック)から始まり、ゲレンデスキー(アルペン)の歴史は100年を超える。スキー産業(レジャー)としての歴史でも80年以上。

そんなヨーロッパですら、1980~1990年代にはスキー産業が落ち込み、抜本的な改革を余儀なくされている。その荒波の中、波濤に消えたスキー場は数知れず。



日本のスキー産業の起こりを戦後の1950年代と考えれば、本場ヨーロッパに遅れることおよそ20~30年。そろそろ変革の時を迎えようとしてもおかしくはない。

ただ厄介なことに、バブル期における日本のスキー場の「成功体験」は忘れ難いほどに素晴らしすぎた。あの夢をもう一度…、と思うのが人情だ。それゆえに、過去に固執してしまいがちで、改革の火の手もなかなか上がらない。

そうこうするうちに、客はドンドン離れ、ますます新たな一手を打つことがためらわれ、手をつけられないほどの悪循環がスタートしてしまったのだ。



そして不幸にも、風評被害はそんな東北のスキー場産業を直撃した。

この風評被害は東北にあまりにも悲惨な結果をもたらしたため、多くの人々はその責任を「外部」に求めた。「賠償しろ!」と。

そんな中、少なくとも星野氏のような人達は、もっと深い部分の原因を見つめていた。



星野氏は、こう考えた。「情報戦に敗れた」と。

風評というのは、とどのつまり情報の一種である。

「実態と違う情報(風評)を持たれてしまったことを含めて、それが私たちの実力なのだ」

より正確で魅力的な情報を提供することこそが、観光産業の仕事だと星野氏は肝に命じているのである。




歴史を振り返れば、控えめな日本国民は情報戦に敗れがちである。

なぜ、アメリカは真珠湾攻撃をあれほど喧伝したのか?

なぜ、中国は南京大虐殺をあれほど強調するのか?



歴史上の事実に真実はあれど、ただ座してばかりでは「言ったもん勝ち」になることも珍しくない。その点、人の記録する歴史というのは非情なのである。

風評被害という実害はあれど、そればかりに囚われすぎてしまっては、歴史の敗者となってしまう恐れもあろう。



もし第二次世界大戦に敗れた日本が、原爆を投下したアメリカの非ばかりを鳴らしていたのでは、世界を驚かせた高度経済成長を実現できなかったかもしれない。

日本は散々な目に遭いながらも、進み続ける道を選んだのではなかったか。かつての敵であった国々とも手を結んで。



星野氏は言う。

「自分が被害者だと思っている限り、東北の観光は本当の意味で復興しない。

本当の問題は3.11(東日本大震災)前からあったのだ。」

風評被害という困難を前向きにとらえるのであれば、それは過去の誤ちを修正するための絶好の機会ともなりうるのかもしれない。




星野氏の力強い言葉に感銘を受けた若き東北の志士たちは、今立ち上がろうとしている。

「凄く熱い心になっています!」



10年後の東北はいったいどんな姿をしているのだろうか?

その頃、今の若き志士たちは新たな志士を続々と生み出しているのかもしれない。




奇跡の職場 
風評被害から職場を守り抜いた人々




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出典:東北発☆未来塾 
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