2012年9月15日土曜日

「食べない」という奇跡。難病の森さんと甲田先生。


人は「食べなければ」生きられない。

しかし、「食べないから」生きられた、という人もいた。

それは、森美智代さんという、ある難病に苦しめられた女性だった。





◎小脳が溶ける…


「最近、なんかよく転ぶなぁ…」

短大を卒業して、大阪府の養護教諭となったばかりの森さんは、「ひどいめまいやふらつき」に悩まされる毎日が続き、数歩歩けば転ぶ状態に。そして、ついには歩けなくなってしまった。



「何の病気だろう…?」

大阪の名だたる病院を転々とするも、その病名すらわからない。それでも、いくつもいくつも病院を訪ね歩き、検査を重ねた結果、ようやくその病名が明らかになる。

「小脳脊髄変性症」。それは「小脳が溶けてなくなってしまう」という恐ろしい病気であり、これまでに完治した人がいないという絶望的な病であった。



10万人に5~10人の割合で発生するこの病には、現在でもはっきりとした治療法が存在せず、国の認定する難病(特定疾患)の一つとされている。

その余命はわずか5~10年…。この時、森さんはまだ21歳…。





◎励みの言葉


絶望の淵に立たされた森さんは、ふと「ある人」のことを思い出す。

「そうだ! あの先生のところに行ってみよう」

その先生とは以前お世話になったことのある「甲田光雄」先生のことであった。「断食と少食で難病が治る」と評判の先生だ。



その甲田医院を訪ねると、甲田先生はしきりに森さんの「お腹」ばかりを診ている。「私の病気はお腹じゃなくて、小脳なんだけどなぁ…」と不思議に思っていると、先生は「断食と少食で良くなります」と力強く断言(先生が診ていたのは腸内の宿便だったとか)。

いままでの先生方(西洋医学)は、「治らない…」としか言わなかった。ところが、この甲田先生ばかりは「良くなる」と断言してくれた。

「よし! この先生についていこう」

明るい言葉をくれた先生に励まされ、森さんの心には「希望」が生まれていた。「私が小脳脊髄変性症の『完治者第一号』になるんだ!」という希望が。



◎断食


甲田先生の療法は「生菜食」。生菜食というのは、熱を加えない生の食品だけを食べること。生の野菜や果物、生のままの玄米粉などがその中心であった。

その生菜食を始めた頃の森さんの一日の摂取カロリーは約900キロカロリー。現代の栄養学によれば、基礎代謝エネルギーは一日1200~1400キロカロリーであるから、森さんの生菜食は相当な低カロリーである。

ところが不思議なことに、それでも彼女の体重は増え続ける。「現代栄養学的」には、まったく説明のつかないことが、少しずつ起こり始めていた。



食を減らすと、そのたびに調子が良くなり、歩けるようにもなってくる。でも、食べ過ぎるとまた悪化。そんな「いたちごっこ」がしばらく続く日々。だんだんと食事の量を減らし、ときおりは断食も実践していた。

そして、甲田先生の指導から5年目、いよいよ本格的な断食に挑戦することとなった。24日間という長期断食の始まりである。陰性体質だったという森さんにとって、長期断食は危険なものでもあった。そのため、その準備(体質改善)に、5年という時を要したのである。



◎完治


断食20日目の夜、彼女は不思議な夢を見る。まるで「天に召される」かのように、身体がどんどんと浮遊していく夢である。

「おそらくこの日、私の細胞は『生まれ変わった』のだと思います」

彼女はそう振り返る。それ以降、「小脳脊髄変性症」の症状はパッタリと出なくなっていた。まさかの「完治」である。



ずっと食を減らしてきた森さん。ついには一日の食事が「青汁一杯(60キロカロリー)」だけとなっている。

それでも彼女は生きている。いや、だからこそ彼女は生きている。



発病から28年、青汁一杯の食事になってから17年。医学的検査はすべて「異常なし」。

「体重は多すぎて困るくらいです」





◎進化した身体


検査を担当した辨野義巳先生によると、森さんの腸内細菌は「草食動物に近い状態」になっていたそうである。たとえば、「クロストリジウム」という腸内細菌は、人間には0.1%くらいしかはずであるが、森さんの腸にはその100倍近い9.8%もいたそうだ。

クロストリジウムは植物の繊維を分解して、そこからタンパク質をつくることができる。人間の腸が食物繊維を消化できないのは、この細菌が少ないためであり、草食動物が消化できるのは、この細菌が多いためである。

また、クロストリジウムのようなタンパク質をつくる細菌たちは、腸内のアンモニアからもアミノ酸(タンパク質の材料)を作り出すことができる。アンモニアといえば、尿にして捨ててしまうほど人間にとって不要かつ有害なもの(ゴミ)であるが、クロストリジウムはそれをタンパク質の材料とできるのである。彼らはアンモニアの中から窒素を取り出すことができるのだ(飲尿療法にも通じる)。



長年の青汁生活の末、森さんの腸はあたかも「牛」のように、植物(青汁)からタンパク質を合成できるように、進化しているようである。

それはまるで、パプアニューギニアの高地に住む人々が、イモ類などの植物しか食べないのに、骨肉隆々なのと同じように…。



さらに、ルイ・パストゥール医学研究センターは、森さんの「免疫力」に驚いた。

免疫力の指標となる「インターフェロンα」が、森さんは普通の人も4倍以上もあったというのである。この免疫物質はウイルスやガンなどの抑制作用が強いことが知られており、ガンや難病が治るのも、この免疫力が「モノをいう」からなのだという。



◎天国と地獄


最後に、森さんはこんな話をしてくれた。

「天国というのは、みんなが大きなお鍋を囲みながら、長い匙(さじ)を使って、お互いに食べさせ合っているといいます。一方、地獄ではその長い匙を使って、『自分に自分に』と自分の口にばかり食べ物を運ぼうとするから、結局こぼしてしまって、一口も食べられずにお腹を空かせているのです」

自分だけが満腹になろうとするのが「地獄」、他の人を満腹にしてあげるのが「天国」。

「みんなが少しずつ食べるのを我慢して、分け合えばいいのです」



◎ボロボロの白衣


世界の直面する食糧問題、そしてエネルギー問題。甲田先生は「少食が世界を救う」と信じていたという。

多少なりとも食べる量を減らせば、もしくは適量を心がければ、それは食糧を分け合うことにつながるだけでなく、無駄な調理によるエネルギーの節約にもつながると言うのである。



ボロボロの白衣を着て、外来の診療代を300円しかとらなかったという甲田先生。

「先生は自分のことを勘定に入れず、ひたすら人々の健康を考え、断食と少食を広めてこられました」

甲田先生の恩を多大に受けた森さんは、敬意を込めてそう語る。



「世界を変える一助」

それは、とても身近なところにあるのかもしれない…。







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出典:
致知2012年8月号
「生きるために私は食べない」森美智代

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