2012年6月19日火曜日

日本発、世界に広まる「タコ食い」


「タコ」の価格がウナギのぼり?

今やスーパーのタコは「高級品」。安いマグロや肉などよりもよっぽど高い(100gあたり300~400円)。国際市場は前年比で30%近く上昇しているとのこと。

さらに悪いことには、先月までの円安の影響で輸入商社は今月分の買い付けを見送ることろもでてきている。そのため、4月の小売価格はさらに30%値上がりしたという。

このままでは、真っ赤なタコにタコ焼き屋さんも真っ青だ。




ところで、我々日本人が食するタコはどこからやって来るのだろう?

国内産は3割程度にすぎず、他7割は「輸入」に頼っているというのだが…。





1970年代以降、その最大の輸入先となってきたのは意外にも「西アフリカ」。最大で日本の輸入量の6割以上を占めるほどである。

大西洋に面する西アフリカのタコは、アワビなどを捕食することからその身が大変に柔らかく、その味はたいそう日本人のお気に召したようである。




タコの輸入量のデータは1974年以降からしか残っていないものの、1970~1990年頃までは「モーリタニア」からの輸入が圧倒的に多かった。

そして1990年以降は、「モロッコ」のタコが主流になる。だが、2003年にモロッコは8ヶ月にわたるタコの「禁漁」を宣言する。それはモロッコの海のタコが乱獲され激減しまったゆえのことである。以後、モロッコは度々の禁漁を行ったために、日本への輸出は急減。



そこで、再びモーリタニアの出番がやって来た。日本企業が港湾を整備したこともあり、日本向けのタコは急増。

その流れは現在にまで続くもので、スーパーのタコの原産国を見れば、「モーリタニア」ばかりのはずである。



ところが、その頼りのツナであったモーリタニアでも、近年タコの不漁が続いている。それが冒頭のタコ価格急騰につながったのである。

幸か不幸か、世界のタコ食は「増加傾向」にあるため、供給の減少と需要の増大がその価格を押し上げたのである。



ところで、世界ではどんな国の人々がタコを好むのか?

もともと南ヨーロッパの人々(フランス・イタリア・スペイン・ギリシャ)はタコをよく食べる。西アフリカや地中海のタコが、伝統料理の食材としてお馴染みなのである。

それに対して北ヨーロッパの伝統料理にタコを見ることはまずない。イギリスではタコは「悪魔の魚(Devilfish)」であり、北欧の怪物「クラーケン」は船を襲う巨大なタコである。




アジアでは日本と韓国がよく食べる。

中国や台湾でも食べられるものの、それは伝統的なものではなく、日本料理や韓国料理から広まったものらしい。

また、インドではタコを食べる習慣はないとのこと。



それでは、日本に大量にタコを送ってくれる西アフリカの国々はどうなのか?

なんと彼らは「全然食べない」。

なぜなら「イスラム教徒」が圧倒的多数を占める同地域では、宗教上、豚を食べないようにタコも食べないのである。



彼らの宗教の書によれば、こう書いてある。

「水中に住む生き物のうち、『ウロコとヒレのあるモノ』は食べても良いが、それ以外のモノは食べてはならない(レビ記、申命記)」

つまり、ウロコもヒレも持たないタコは「食べてはいけない」のである。当然、同じ理由から彼らはイカもエビもカニも貝類も「食べてはいけない」。

※ユダヤ教徒も同じ理由から同様の水産物を食べない。


大人も子どももわかる
イスラム世界の「大疑問」



ということは、西アフリカで盛んにタコが捕られていたのは、わざわざ日本に送ってくれるためだったのである。

実際、モロッコやモーリタニアで取れたタコは、そのほぼ全量が日本に輸出されているとのこと。

また逆に考えれば、彼らイスラム教徒が食べないタコは、彼らにとっては何の値打ちもないものにも関わらず、日本人たちは喜んで買ってくれるわけであるから、それはそれで彼らにとっては美味しい話だったのかもしれない。



しかし、日本人の「タコ好き」は度を超していた。

とりわけ2000年に入ってからの「タコ食い」は凄まじかった。

折りしもの「タコ焼きブーム」によって、日本国内のタコ需要は急増。モロッコやモーリタニアのタコが日本中にあふれかえったのである。




ところが、タコは無限ではない。

モロッコの海からタコは消え、そしてモーリタニアの海でもピーク時の半分以下しか捕れなくなった。要するに「乱獲」のツケが回って来たのだ。

日本人がタコ焼きを食うスピードがタコの繁殖するスピードを上回ってしまったのである。

また、世界に「Sushi(寿司)」が広まっていったことも、世界のタコ食いを加速させた。アジア地域はもちろん、タコを食べなかった中南米の人々も寿司の上のタコを食べるようになったのである。




WWF(世界自然保護基金)は、タコを食いすぎる日本をこう批判している。

「モロッコやモーリタニアで獲れたタコのほとんどが日本に来ていたことは明らかで、それがしばらく続いたために、どちらの国でもタコが獲れなくなってしまいました。

日本人がタコ焼きの具や酢ダコとして安く大量に食べることにより、両国の資源を根こそぎ獲ってしまったのです」




歴史をさかのぼれば、1970年頃まで日本は魚介類の「輸出国」であった。

ところが現在の日本は世界一の「輸入国」。日本の魚介類自給率は今や60%ほどにすぎない。



輸出国から輸入国に転じた1970年代には「オイル・ショック」があり、「200海里規制」があった。

そのため、それまで高度経済成長に乗って盛んに水揚げ量を増やしていた日本の漁業は一挙に暗転。それ以来、国内での漁獲量の減少は今なお続いており、現在はピーク時の半分にまで落ち込んでいる。



現在の日本は世界の海から海産物を調達しており、ある国の海産資源を枯渇させたりもしている。

それはWWFの指摘する通り、「資源を根こそぎ獲ったあとは、次々と違う国や地域に触手を伸ばしている」のである。

実際、昨今のタコ価格急騰を受けて、日本の輸入商社は西アフリカから中国・ベトナム、メキシコなどにもタコを探しに行っているとのことである。




タコという生き物は、外敵に襲われた時には、自分の足を切り離して逃げるのだという。そして、そのなくなった足はまた生えてくる。

ところが、不思議なことに自分で自分の足を食べると、その足はなぜか再生しないのだそうだ。

※タコは空腹などのストレスから自らの足を食べてしまうことがある。



こうしたタコの習性が「タコ配当」という言葉を生んだ。

株式市場で使われるこの言葉の意味は、「利益があったように見せかけるために、利益以上の配当を行い、経営状況の悪化を取り繕ってごまかす自殺的な配当行為」とのことだ。



ある海にタコがいなくなったからといって、他の海にタコを探しにいっても、それは自らの足を食らう行為に等しい。

タコの足が自らの足を食らった時、その足は二度と生えてこないのだ。



なぜ、自らが食べた時にその足は生えてこないのか?

それはその行為が自殺行為であるからであろう。エサに困って自分を食べてしまう習性を身につけてしまえば、いずれ同種間ですら共食いしてしまうかもしれない。

そうなってしまうと、一個体の自滅にとどまらず、種全体の絶滅にもつながりかねない。そう考えると、自分で食べた足が生えてこないのは、神様の親切とも思えてくる。



ところで人類は?

タコの乱獲に限らず、共食い的な自滅行為は世界のアチラコチラに見られるのではなかろうか?

他の足だと思ってバクバク食べていたら、それは自分の足だったということも珍しくはないのかもしれない。幸か不幸か、世界の海は結局つながっているのだから。



たかがタコ焼き。

それが世界の海の乱獲につながっているとは、思いもよらないはず。

されどタコ焼き。

タコは一年間でその体重を10倍以上に増やすこともあり、その繁殖サイクルは1~3年と早い。

それでも海からタコが消えるとは、恐るべし人類の早食い。



世界の広大さは、その恵みが無限であると誤解させがちである。

しかし、その恵みが湧き出でるスピードは昔から決して速くはなっていないはず。

回転が速くなったのは人間社会ばかりであり、人々の食べるスピードばかりである。





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出典:
魚種別に見る水産資源の現状と問題/タコ
WBS特集「タコの価格に異変
水産物自給率の推移(グラフ)


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